要旨

本稿は連載『不育症の見取り図 ― 何を検査し、何を治療し、何を見送るか』の第 1 回(見取り図と検査)。不育症(recurrent pregnancy loss:RPL、流産・死産を繰り返す状態)の精査ではしばしば複数の所見が見つかるが、治療によって次回の妊娠転帰が変わるものは限られる。本邦のデータでは約 3 分の 2(65.1%)が原因不明に分類され、無治療を含めて5 年でみると約 7 割が生児を得る。対照群でも多くが生児に至るため、治療群の良好な成績がそのまま治療効果を意味するとは限らない。低用量アスピリンとヘパリンの併用で生児が増えることが臨床試験で示された"治療できる原因"は、実質的に APS(antiphospholipid syndrome、抗リン脂質抗体症候群)に絞られる(ただし効果の確実性は高いとは言えない)。本稿は、見つかった所見を「原因か・随伴か・偶然か → 治療で生児が増えるか → 変わるのは代理指標か累積生児か」の三つの見分けで整理し、ESHRE・ASRM が標準とする限られた検査(子宮形態・抗リン脂質抗体・甲状腺・夫婦核型)と、日本の「不育症管理に関する提言(2025)」のやや広い立場との差を扱う。

本論の要点

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本稿が踏み込む 5 つの論点

  1. 約 3 分の 2 は原因不明で、無治療でも自然予後は良い — 本邦の多施設データ(Morita 2019、1,340 例)で最も多い所見は原因不明(65.1%)。提言は 5 年追跡で約 70% が生児を得るとし、原因が特定できた群と原因不明の群とで最終的な生児獲得率に大きな差はない。対照群の成績がもともと高い集団では、治療群が良くても、それだけでは治療効果の証明にはならない。
  2. "治療できる原因"は実質 APS に絞られる — 見つかる所見の多くは、流産の原因とも治療で転帰が変わる対象とも言い切れない随伴所見。低用量アスピリンとヘパリンの併用で生児が増えることが臨床試験で示されているのは、実質的に APS のみ(ただし効果の確実性は高くない)。日本の提言(2025)も、APS に対する低用量アスピリンとヘパリン治療で生児獲得率が高まるとしている。
  3. 所見を見分ける三つの問い — ①その所見は流産の原因か、随伴か、偶然か ②原因なら、治療で生児が増えるか ③増えるなら、変わるのは流産率(代理指標)か、累積生児(最終的に児を得て退院できる確率=真のエンドポイント)か。生物学的な機序の説得力や、流産率の改善だけでは、治療の十分な根拠とはいえない。
  4. 代理指標と真のエンドポイントは一致しないことがある — 染色体構造異常をもつ夫婦への着床前遺伝学的検査(PGT-SR)は流産率を大きく下げる(24% 対 65.3%、OR 0.15、Li 2022)が、累積生児率は待機と変わらない(60% 対 68%)。中隔子宮への子宮鏡下中隔切除も、初の RCT では生児率が待機と同等だった(31% 対 35%、RR 0.88、Rikken 2021)。代理指標が改善しても、児を得る最終確率は変わらないことがある。
  5. 標準検査は限られ、日本はやや広い — ESHRE・ASRM が標準とするのは、子宮形態・抗リン脂質抗体(aCL・LA・anti-β2GPI を 12 週以上あけて 2 回)・甲状腺(TSH・TPO 抗体)・夫婦核型に限られる。ANA・遺伝性血栓性素因のルーチン・黄体期プロゲステロン値・子宮内膜生検などは、結果が治療を変えないため標準では行わない。日本の提言は凝固第 XII 因子やプロテイン S を選択的に検査する立場で、国際標準より広い。

図表アーカイブ

不育症の自然予後 ― 所見があっても・無治療でも・対照群でも生児率は高い
図1. 所見があっても・無治療でも・対照群でも、生児率はもともと高い ― 染色体構造異常をもつ夫婦の累積生児率は正常核型群と同等(81.4% 対 74.8%、Li 2022)、遺伝性血栓性素因への LMWH を検証した ALIFE2 の標準治療群は 70.9%、甲状腺自己抗体への levothyroxine を検証した T4-LIFE のプラセボ群は 48%。この良好な自然予後のもとでは、治療群が良い成績でも、それが治療の効果によるものとは限らない
見つかった所見を治療対象にするかの三つの見分け
図2. 見つかった所見を治療対象にするかの「三つの見分け」 ― ①原因か、随伴か、偶然か ②原因なら、治療で生児が増えるか ③増えるなら、変わるのは流産率(代理指標)か、累積生児(真のエンドポイント)か。三つを通った所見が、治療を検討する候補になる
不育症の精査で標準的に行う検査と、標準では行わない検査
図3. 不育症の精査で標準的に行う検査と、標準では行わない検査 ― 標準は子宮形態・抗リン脂質抗体(aCL・LA・anti-β2GPI を 12 週あけて 2 回)・甲状腺(TSH・TPO 抗体)・夫婦核型。ANA・遺伝性血栓性素因のルーチン・プロゲステロン値・子宮内膜生検などは結果が治療を変えないため標準では行わない(日本の提言は凝固第 XII 因子・プロテイン S を選択的に追加)

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主要参考文献

  1. こども家庭庁. 不育症管理に関する提言(2025).
  2. Sugiura-Ogasawara M, et al. Frequency of recurrent spontaneous abortion and its influence on further marital relationship and illness〔岡崎コホート〕. J Obstet Gynaecol Res. 2013;39(1):126-131. PMID: 22889462
  3. Sugiura-Ogasawara M, et al. Prevalence of recurrent pregnancy loss and the Japan Environment and Children's Study〔エコチル調査〕. Am J Reprod Immunol. 2019;81(5):e13072. PMID: 30430678
  4. Morita K, et al. Risk factors and outcomes of recurrent pregnancy loss in Japan. J Obstet Gynaecol Res. 2019;45(10):1997-2006. PMID: 31397532
  5. Li S, et al. Preimplantation genetic testing for structural rearrangement versus expectant management in couples with a balanced translocation. Fertil Steril. 2022;118(5):906-914. PMID: 36175209
  6. Quenby S, et al. Low-molecular-weight heparin versus standard care in pregnant women with recurrent pregnancy loss and inherited thrombophilia〔ALIFE2〕. Lancet. 2023;402(10395):54-61. PMID: 37271152
  7. van Dijk MM, et al. Levothyroxine in euthyroid thyroid peroxidase antibody positive women with recurrent pregnancy loss〔T4-LIFE〕. Lancet Diabetes Endocrinol. 2022;10(5):322-329. PMID: 35298917
  8. Rikken JFW, et al. Septum resection versus expectant management in women with a septate uterus〔TRUST 系 RCT〕. Hum Reprod. 2021;36(5):1260-1267. PMID: 33793794
  9. ESHRE Guideline Group on RPL. ESHRE guideline: recurrent pregnancy loss. Hum Reprod Open. 2018;2018(2):hoy004. PMID: 31486805

※ 本連載は特定の検査を「すべき/すべきでない」と個別に推奨するものではなく、見つかった所見をどう解釈するかを示すことを目的としています。連載全体(全 5 回)の引用文献は、各回の本文(theLetter)に収載しています。